「と言うわけでL、お前欲求不満だったんだな。気付いてやれなくてごめんよ。」
「……ちょっと待ってください。何でそうなるんですか?!」
俺はLの肩に手をかけると引き寄せた。体重も軽めだし体育座りみたいなヘンな座り方してるから、Lは簡単に俺の膝の上に載せられてしまった。
「降ろして…、降ろしなさい!」
「やだ」
俺はLの耳朶に軽く噛み付いた。
「ひゃ…っ、だからやめなさいって……!」
当然やめてやるつもりはない。けれどLは俺から逃れるために両腕で突き放そうとしてくる。
この細い腕の何処にこんな力があるんだろう。腕相撲を申し込むのはやめよう。負けたら一週間はヘコみそうだ。
「じゃあこうしよう。へそから下には触んないよ。真っ昼間だし、ちょっと遊ぶだけ。」
Lは俺をにらみつけた。俺の魂胆は見透かされてしまったらしい。
『それで最終的に私の方から要求するようにし向けるつもりなんでしょう?』と、Lの目が言っている。
これは、冗談だと言って手を離した方がいいかもしれない。
けれど、Lは大きくため息をついてからこういった。
「…わかりました。しばらく付き合ってあげます。」
それから声のトーンを一段きつくして続けた。
「ただし、私はあなたに付き合ってあげるんですから、かわりに今から一時間以内に私を病院まで連れて行ってください。」
ここから最寄りの眼科までは車で10分だ。最後までやったとすると後始末と身支度に結構時間がかかって、ええと………。
「ちなみに条件守れなかったらどうなるんだ?」
「ワタリに言いつけます。きっと、夏休みはおしまいですね」
Lはしれっと言ってのけた。
やっぱり交渉でLを出し抜くのは無理だ。契約不履行の罰はとんでもなく高くつきそうだし、続きをするためにはおとなしく条件を飲むしかない。
「……了解。へそから下には手ぇださない、一時間以内にお前を病院に連れて行く、でいいんだな。」
「……では成立ですね」
Lは携帯をとりだしてタイマーをセットした。
「んで移動時間が、一番近い眼科までは車で……」
「それは教えてくれなくていいです」
Lは俺の台詞を遮った。
「拷問受ける訳じゃないんですから、あと何分我慢、なんて変です」
ことんとテーブルに携帯を置く。
「タイマー、動き出しましたよ」
わからない。
こいつは時々ものすごくわかりやすいが、でも基本的に何考えてるのかさっぱりわからない。
それは楽しみたいって事だと解釈していいのか?
だとしたらさっきの抵抗とかイヤそうな素振りって、全部計算か? 病院に行くための?
俺は、遊んでるつもりで遊ばれてたのか?
「……かわいくねぇやつ……」
「そのぐらい知ってます」
憎まれ口もかわされてしまった。
くそ、へそから下は不可って条件付きだし、こうなったら上半身で泣いてよがるようなトコ開発してやる。
Lは俺の足の間で軽く膝をかかえて座っている。その首の付け根に俺は口付けた。
「?」
反応薄し。でもこいつくすぐったい系には弱いんだよな。
そのまま斜め上に顔を傾けて、あごの裏側に吸い付く。
白くてひんやりしてて、そしてなめらかで柔らかい。男の肌とは思えない。
少しだけ出した舌を尖らせてそっと耳の方まで線をなぞるとLは軽く体を震わせた。
「……ぅんっ……」
首は感度よし。
今度は耳の下の方からチュッと短い口づけを繰り返して戻っていく。
「……あっ…そこっ……赤く…なるから、困ります……」
首筋にはほんのりピンクの円が浮かんでいた。色っぽい光景で、俺はこのピンク色を保存しておきたいぐらいだったが、出かける事を考えると確かにまずい。
「ちぇ、ケチ」
俺はLの耳の裏をぺろっと舐め上げた。
「ひゃん……ぁっ」
ちょっと塩の味がしたのはきっと汗のせいだ。Lのものだと思うと嫌悪感がわかないのが不思議だった。髪の匂いも、俺と同じシャンプーなのにくらくらするぐらい甘く感じる。
「じゃ、かわりにこれ舐めて」
指を二本、Lの唇にのせる。Lは猫みたいに舌先でちょんとそれに触れ、それから口を開けてゆっくりと飲み込んだ。口の中は熱く柔らかいものが蠢いている。最初は口に含んでいるだけだったが、やがてLは平べったい舌をからみつけてきた。
何やらせても器用だから困るよ、こいつは。
たまらなくなって俺は目についたLの耳朶に甘く噛み付いた。そのまま噛み付いた歯列の内側を舌でなぞる。
びりっと電流でも走ったみたいに、Lの背中が一瞬緊張した。同時に口の中の俺の指も強く吸われる。
よし、脈あり。
Lの口から指を引き抜く。
「なんか今、反応でかかったけど?」
「…べ、べつに…」
息を整えてからLは答えた。言葉とは裏腹に、頬に赤みが差している。
「そか。耳なら髪で見えないからいいよな?」
俺はもう一度同じ動きをしてみた。ただし今度はもっとゆっくり、触れるか触れないかぐらいのじれったさで。
「…ん……っ、あぁ……」
強がってがまんしている。俺は一人ほくそ笑んだ。
耳はそのまま繰り返しながら、両手をシャツの中に滑り込ませた。
Lの唾液で濡れた指で乳首をはさみ、転がす。もう片方の手は手の平で大きくなで回す。
「……は……あっ………」
吐息が熱っぽい。肌もじっとり汗ばんでいる。
エアコンの効いた室内でLは普段ちっとも汗をかかない。この汗は俺の成果だと思うとちょっとにやけた。
膨れあがった乳首に指をかけて胸から剥がすみたいに引っ張ってみた。
「! やだ…何するんですか…」
言葉は怒ってるけれど、語尾が潤んでいて誘ってるようにしか聞こえない。
「いや、取れそうだなー、と思って。」
「……馬鹿…」
見ると、声だけじゃなく目も潤んでいた。
ああ、ちくしょう、かわいい、変な条件出すんじゃなかった。
「……へそは、いいんだったよな」
「え…?」
尻にやるときと同じように、なめらかな腹をなで回し、その中心の穴にぷつっと指を埋め込んだ。
「!」
反射的に閉じたLの目から涙がこぼれた。
ちゅっと吸い取る。しょっぱい。
ふっと、さっき見た目の生々しいエロさを思い出して、Lのまぶたにキスをした。あのひどい隈の上を舌でなぞる。
「やだ……変なところ…触らないでください…」
やだと言われるとやりたくなるもんなんだ。
俺はまぶたを唇で噛んだ。
「うあ!!」
次の瞬間Lが俺を突き飛ばし、ソファから立ち上がった。片目を押さえて俺をにらんでいる。
「…びっくりした。なんだ? そんなにいやだったのか?」
「…………」
Lは黙って俺をにらんでいる。
頬が赤くて呼吸が速くて目が潤んでて、なんとなく、ガキが泣きながら怒ってる様子ににている。
「………………ものもらい……」
ぼそっとLが呟いて、俺はやっと気がついた。
「! 悪い、すっかり忘れてた。もしかして今……」
「もしかしなくても、潰れちましたよ! だからイヤだっていったのに! ああ、なんだか目が気持ち悪い!!」
「あー……。悪い、ごめん、すまん。ほら目薬」
Lの剣幕に押されて口では謝ったものの、俺にはどうもLが理解できなかった。急にぽっかり空いた目の前の空間が寂しい。
俺だったら、全部終わるまでほっとくんだけどなぁ。
Lは受け取った目薬をちょっと見て、それから俺に突き返した。
「何? 今からでも病院行くか?」
「あなたのせいでもう手遅れです。そうじゃなくて」
気を落ち着けるみたいにLは一度息を吐いた。
「?」
「この状況では、落ち着いて目薬なんて出来ないので、かわりにやってください。」
ああそういうことか。
怒っているせいか、俺のせいかもう区別が付かないけれど、とにかくLはまだ呼吸で肩が上下するような状態だ。
「了解。こっちこいよ」
さっきまでと同じように俺の膝の間に戻って、Lは顔をこっちに向けた。
でも、残念ながら続きは出来ないだろう。
ため息混じりに目薬のキャップをとり、Lの目をのぞき込んだところで、ふと思いついたので言ってみた。
「L、『入れてください』ってお願いしてくれたら入れてやるぞ?」
世界一優秀な探偵は隠された意味に難なく気付き、出会ってから今までで一番大きな声でこう答えた。
「この変態馬鹿!!!」