ピンプォンと、調子っぱずれな玄関のチャイムが鳴った。実はその10分も前から俺は玄関に突っ立ってそれを待ってたわけだが、ごまかすみたいにゆっくり3つ数えてから俺はドアを開けた。
Lがいた。
つやつやとした黒髪が夏の日差しをキラキラと散らしている。その下の肌は逆に、夏だってのに嘘みたいに白い。大きめのカバンを両手で持っているせいで、猫背がいつもより少し真っ直ぐになっている。目の下の隈も今は長いまつげの影と同化して目立たない。
ひさしぶりに陽の光の下でみるLはなんだか儚げに綺麗で、俺はどきっとした。
「こんにちは」
形のいい薄い唇が動いた。
「しばらくの間、ご厄介になります」
軽く頭を下げると照れたように目を細めた。
あああああ!!
「えるううううううう!!!」
俺は堪えきれなくなって、戸口に立つLに飛びつき抱き寄せた。カバンが落ちて音を立てた。
「…っ、ちょっと、痛いですっ…ここ外ですよ?」
Lが抱きしめている俺の腕の下から自分の腕を引き抜いて、ドアを閉めた。
どすんとLの背中がドアに当たって、俺はLをドアに押しつけたような体勢になった。
「悪い、思わず……。痛かったか?」
口では謝ったが腕はまだ腰のあたりに回したままだ。
「大丈夫です。もうなれました。相変わらずですね、あなたは」
玄関の電球の下で見ると、やっぱり目の下の隈が濃くて、身長は俺と同じくらいのくせに腕や腰はやけに細くて、言葉は丁寧なくせにどこかふてぶてしさを感じさせる、いつも通りの俺のLがそこにいた。
言いたい事はいろいろ用意しておいたくせに、Lの存在を腕の中に確認したとたん全部飛んでいってしまった。
「お帰り。久しぶりだな、L。」
「久しぶりって、この間会ったばかりじゃないですか」
Lの言うとおり、事件が解決したその日に俺はワタリさんから連絡をもらって、Lのいるホテルまで会いに行ったのだ。けど、
「けど、お前、事件のせいでどれだけ会えなかったと思ってるんだよ。半年以上だぞ。逢えない夜が連続180回以上だぞ?」
Lは表情を隠すように顔を背けた。しまった話がまずい方にいく所だった。
「でも諸悪の根元はお前が退治してくれたから、それももう終わりだよな。本当にご苦労様。
しばらくは、俺の所でゆっくりしてけよ」
「ゆっくりしていけって言うなら……」
振り返ったLの顔は少し紅潮している。
「さっきから足を撫でているこの手はなんなんですか?」
なんだばれてたのか? それで顔を背けたのか?
俺はさっきからジーンズ越しにLの太腿の内側を撫でていた。
「この間………さんざんやったじゃないですか」
そう。Lの言うとおりホテルに会いに行った時にさんざんやった。
嬉しかったとか溜まってたとかそんな状況で、しかも、ホテルは部屋も風呂もベッドもでかい上に、防音その他プライバシー管理も完璧だった。だから
「お前があんなになるなんてなあ………」
「………思い出さないでください」
Lがますます赤くなる。
かわいいぞお前。ちくしょう。どう我慢しろって言うんだよ。
「でもソレとコレとは別だろ!!!」
俺は勢いよくLにキスした。何か言い返すつもりだったんだろう、半開きになった歯列の隙間から舌を滑り込ませる。一瞬逃げようとしたLの舌を絡め取る。軽く吸うと、Lは踏ん切りを付けるみたいに息を漏らしてから俺に応じて舌を這わせてきた。
肌はひんやりしているのに舌も吐息もちゃんと熱くて俺はなんだか感動した。
Lが足を閉じないように膝と膝の間に俺の膝を滑り込ませた。それからジーンズの留め具に手を伸ばすと、自分でやる、と言うようにLが手を重ねた。
薄暗い玄関に二つのジッパーをおろす音が響く。男二人分の体重を受けて玄関ドアがぎしぎしきしむ。階段から遠い角部屋でよかった。現実の欠片が頭をよぎって俺は苦笑した。
情けない事に抱きしめてキスしただけで俺のモノは半分ほど立ち上がっていた。自分の余裕のなさが恨めしい。
Lのシャツの裾から手を入れる。薄く浮き出たあばらを一段一段数えていくみたいにゆっくりなで上げる。うっすら汗をかいているから滑りがいい。つーっと胸の上を滑らせて乳首をつつく。
「……んっ」
かすかな反応。もうちょっと弄るにはたくし上げられたシャツが邪魔だ。
「はいこれ、持ってて」
所在なさげにぶら下げられていたLの手を取ってシャツを持たせた。
「……なにか抵抗があります。この格好……」
Lの言うとおり、それは妙にヤらしい光景だった。
「あれに似てるんだな。お・医・者・さ・ん・ごっこ」
「何、馬鹿な……っ」
文句を言われる前に軽く乳首に噛み付いた。刺激されて硬くとがったところを舌で柔らかく押し潰す。再び噛み付いて、今度は舐め上げて、以下無限ループ。もう片方の乳首も空いている手で同様に、微妙に周期をずらして刺激する。
効果は明らかだった。
「ひっ…あ……ん…」
両手はぎゅっとまくし上げたシャツを握りしめている。
「この格好、イヤじゃなかったのか?」
両手をつつくとLは恨めしげに俺をにらんだ。残念ながら怖いと言うより、うっすら目が潤んでいて、そそられる。
「下の方も、触るからな」
本当はもっと胸弄って遊んでやりたいんだけど、狭い玄関で中腰はつらいんだよ。
既にジッパーの下げられたジーンズの中に手を滑り込ませる。片手で尻のふくらみを包む。汗ばんでひんやりとした肌が手に吸い付くようだ。ゆっくりとなで回す。女の柔らかさはない。薄い皮下脂肪の下に確かにしなやかな筋肉の存在を感じる。
これは俺と同じ男なのに、なのにどうしてこんなに愛しいと思うんだろう。どうして俺はこいつに欲情するんだろう。
迷いを断ち切るように、俺はLの首筋に吸い付いた。耳の下あたりから始めてゆっくり鎖骨に向かって移動する。
「だ…から…、そこは、やめて…ください…って」
首元から唇をはなして見上げると、Lは眉根を寄せて切なげな息づかいだ。
なんだかどうでもよくなってきた。男でも女でもなく、俺はLが好きなんだ。
尻の谷間で中指をついっと滑らせて、俺はそこに触れた。ゆっくりと指を埋める。
電流でも走ったみたいにLが体を震わせた。
「夏のせいかな、中も濡れてるぞ」
「……馬鹿、言わないで、ください…」
Lは否定したが、Lの中はじっとり湿って俺の指を飲み込んでいく。
左腕をLの腰に回して固定する。指をゆっくり中で上下させると、Lは深い呼吸を繰り返して身体を俺に預けてきた。
「つらかったら、俺に掴まれよ?」
「……っふぅ……、はい…、そう…………し…ます…」
さすがに素直に、両腕が俺の首に回された。どちらのものか区別が付かないが、汗のせいで触れあったところは皮膚とは思えないぐらいぬるぬるになっている。Lはぐったり脱力しているから、まるで絡みつくみたいだ。さっきのキスの続きを身体でやってるみたいでぞくぞくする。
やばい、正直、Lより俺のがよっぽどやばい。
「そろそろ、いくぞ」
右腕をLの左膝の下に入れ持ち上げて、足を広げる。指を抜いて、かわりにビリビリするぐらい立ち上がった俺のモノをあてがう。
衝撃に備えるみたいに大きく深くLが息を吐いた。タイミングを合わせて、ぐっと突き入れる。
「あ…ぅああっ!!」
玄関に身体を押しつけて立ってる状態だから、最初の一撃でいつもよりはるかに深く入った。
予想以上だったんだろう、Lが声を漏らした。
いつもなら、音が外に聞かれそうなところでは用心して絶対に声を漏らさないのに。
「いいか、動くぞ」
こくんとLがうなずいた。
冗談みたいに軽いLの身体を抱えて、俺はゆっくり上下させ始めた。重力のおかげでゆっくり上げて勢いよくおろすリズムになる。つながった部分がぐちゅぐちゅと音を立てている。
「っあぁ……なんだか…………いつも…と…………ちがい……ます……」
「なんだよ、それ。いいって事、か?」
「知り………ま……せん……っ」
相変わらずの負けず嫌いを俺はたまらなく愛しく思った。
「じゃ、もっと、すごくしてやる」
完全に引き抜くぐらいまで大きく腰を動かすと、勢いよく打ち付けた。
「あ、あああっ…………………!!!」
「つぎで、ラスト、かな」
Lのモノは二人の身体の間で硬く立ち上がって白く濡れ始めていた。俺は再び大きく体を動かした。
「ま、待って……だって…あ…足が………たたな……!!!!!」
絶頂を迎え身体が崩れ落ちる瞬間、Lはぎゅっと俺の身体にしがみついた。指が俺の肩に食い込む。口を押さえるものがないからだろう、俺の首筋に顔を埋め、噛み付くような吸い付くような動きをした。まるで吸血鬼みたいに。
それは予想外の衝撃だった。体中の何かが一気に音を立てて蒸発するみたいな快感。
俺は全てをLの中にはき出し、くらくらするめまいの中でぼーっとLの頭を撫でていた。
「……なんか、お互い、汗とかなんだとかでベトベトだなあ」
「他人ごとみたいに。こんな身動きとりづらくて風通しの悪いところで始めたのはあなたでしょう?」
Lは膝のあたりまでずり落ちた汚れたジーンズを、気持ち悪そうにつまんで引き上げている。
「あー、やめとけ、その服は洗濯機行きだよ。むしろ脱いじまえ」
そこまで言って俺はひらめいた。
「よし、汗かいたし一緒に風呂入ろうぜ。お前、俺の家のシャワーの使い方とかわかんねぇだろ?」
俺は、いやがるLの腕を無理矢理引っ張って風呂に向かう。やがて観念したようなLのため息が聞こえた。
今までの人生で一番幸せな夏休みが、これから始まろうとしていた。